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2019/12/26

マツダがくしゃみをしたらカープも風邪をひく!?

第四章 広島人はなぜ、地元愛にこだわりすぎるのか
ものづくりの力 職人と商人が培った街づくり

岩中祥史「広島の力」(青志社)より

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 そうしたウイークエンドを楽しむべくウイークデーは仕事にいそしむ広島県民による県内総生産は10兆8429億円。これは全国の2・2%、中国地方全体の39・4%を占める。また製造品出荷額の業種別特化係数を見ると、鉄鋼(2・7)、輸送用機械(1・6)、木材(1・6)が高いことから、重厚長大といっても、こうした業種に大きなウェイトがかかっていることがわかる。

 なかでも、自動車・同付属品は出荷額全体の21・7%を占め、マツダ系列のウェイトが高いのは一目瞭然。鉄鋼(16・9%)も加えると、その比率の高さ=県経済への影響力の大きさが見て取れるだろう。

 そして、そのマツダが広島カープを支える大きなスポンサーなのである。といっても、マツダが直接、経営を担っているわけではない。たしかに、球団の株主構成を見ると、マツダの創業者・松田家(松田元=20・4%、松田弘=12・2%、松田勢津子=10・1%)が42・7%、マツダが32・7%、カープのグッズ販売などを手がけるカルピオが18・5%などとなっている。

 筆頭株主はマツダなのだが、かといって経営にはタッチしていない。あくまで関連会社なのである。いわゆる「市民球団」のイメージからするとやや偏りを感じるが、マツダ一族も、法人としてのマツダも広島市・広島県の住民≠ノは間違いないから、それについてはここでは触れない。

 幸い、新しいスタジアムができてからの球団経営は予想以上に順調である。旧広島市民球場でもっともひどく落ち込んだ年(2006年)に比べると、黒田博樹がメジャーから復帰してきた15年の入場料収入はその2・8倍=約54億円。入場者数も200万人を初めて突破した。グッズの開発や販売も好調で、この年の売上高は球団史上最高の約148億円に達した。

 もともとが「関連会社」だから、たとえ球団の経営事情がどれほど苦しくても赤字を補填することはない。ただ、そうであったとしても、松田家が球団のオーナーとして、財務や営業、事業に深く関わっているのは当然である。もちろん、そうした判断を下す際、本体=マツダのふところ事情も影響する。

 

 だが、ここで忘れてはならないのは、マツダと深く関わっている大小の企業である。マツダがくしゃみをしたらほかが風邪をひくとまではいかないにしても、やはりマツダ本体を盛り上げるためにエネルギーを使うだろうし、それによって自分たちも恩恵をこうむることができるとなれば、どこも必死になる。会社だけでなく、そこで働く社員やその家族、さらには下請けや孫請けの事業者もそれは同じだ。

 ニワトリと卵をもう少し複雑にしたような関係だが、カープが勝つ→人々の気持ちが盛り上がる→仕事に精が出る→マツダ関連会社の生産性が上がる→マツダ本体の業績も伸びる→カープの「財務や営業、事業」にも好影響を与える→カープが強くなる……といった図式だろうか。カープが強ければ、子どもたちも勉強が楽しくなるし、母親もそれでご機嫌になれる。夫婦は円満、家族も和気あいあい。ショッピングやエンターテインメント施設、飲食店にお客が入る。市や県の税収も増える。

 もちろん、実際はこれほど単純なものではないだろうが、広島がさらに活性化し、成熟していくための重要なキーをカープは握っているのだ。その意味で広島は、県全体がカープを軸にした大きな運命共同体なのである。見かけは一球団かもしれないが、その責任はとてつもなく大きく、また重いのだ。

 きょう日は全国どこの都道府県にもあるが、広島県にも「県民栄誉賞」というのがある。「輝かしい業績をあげ、広く県民に夢と希望を与えられた方々をたたえるもの」なのだが、これまで同賞を受賞した8人のうち、なんと6人が広島カープの選手だった。山本浩二、衣笠祥雄、北別府(きたべっぷ)学、野村謙二郎、前田智徳(とものり)、そして黒田博樹である(残り2人は岡本綾子、森下洋子)。

 こうしたことも、広島県では、受賞した本人だけでなく、県全体にインパクトを与えるはずである。それからすると、広島県・広島市とカープのかかわりの深さは、一球団とフランチャイズといったレベルをはるかに超えているのだ。

 初めての外国人監督ルーツが選手たちに向かって言った「君たち一人ひとりには、勝つことによって広島という地域社会を活性化させる使命がある」という言葉の意味がいまさらながらよく理解できるのではなかろうか。


岩中祥史(いわなか よしふみ)
 1950年11月26日生まれ。愛知県立明和高校から東京大学文学部に進み、卒業後は出版社に勤務。1984年より出版プロデユーサーとして活動するとともに執筆活動も。地域の風土と人々の気質との関係をテーマに、『名古屋学』『博多学』『札幌学』『鹿児島学』『新 不思議の国の信州人』『新 出身県でわかる人の性格』『名古屋の品格』『城下町の人間学』など著書多数。2011年の上梓した『広島学』はご当地広島の人たちをも驚かせる内容で、ベストセラーになった。


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