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2019/8/1

広島の冬はやっぱりカキ!

第四章 広島人はなぜ、地元愛にこだわりすぎるのか
瀬戸内海・「魚」の力 高級魚よりも新鮮でおいしい

岩中祥史「広島の力」(青志社)より

 2016年4月10日、G7外相会合が広島で開催された。その際、7カ国の外相はじめ、関係者やスタッフ全員が出席しての船上カクテルパーティーがあったのだが、これには出席者一同、感激したという。

 会場は、広島市の海運会社・瀬戸内海汽船が運航する「銀河」。広島市・呉市と松山市の間を結ぶ高速船やフェリーを運航している会社だが、この「銀河」を使ったディナークルーズ、ランチクルーズはたいそうな人気で、週末ともなると、予約を取るのが大変なくらい、にぎわいを見せる。

 船上で口にする食事のおいしさに加え、移り行く陸地の景色が昼も夜も素晴らしいのだ。ライトアップされた宮島をその沖合から見ると、だれもが息を飲む。こうした観光商品が成り立つのも、瀬戸内海のサイズがコンパクトだからである。

 ただ、クルージングの航路のそちこちに多種多様な魚や貝が棲息していることなど、一般の乗客はおそらく意識していないだろう。

 「広島の力」のなかでも、もっともわかりやすい魚たち――。それはすべて、広島近くの海で獲れる。どこか遠い遠洋のものではないのだ。逆に言うと、どの魚も新鮮だということになる。

 昔の、といっても明治時代前半のころまでだが、日本人は水産物からしかタンパク質を摂る手段がなかった。農産物では豆腐と納豆くらいである。海と接していない地域や大きな川のないところに暮らす人々は、栄養のバランスを取るのが大変だったにちがいない。

 そこへいくと、広島の人たちは恵まれていたと言える。何せ、すぐ近くまで山が迫ってくるほど平地が少なかったのだから、頼りは目の前にある瀬戸内海だけ。しかし、そこでは、ほかの地域の人からすれば、ヨダレが出るほど豊富な水産物が獲れた。

 いまでこそ、ブランド魚などというぜいたくなしろものまであるが、かつては生きていくために欠かすことのできない魚であり貝でしかなかった。しかし、一年中途切れることなくそれを口にすることができるとあれば、人々の体も丈夫になるし、心も満たされる。

 タンパク質は、いまさら言うまでもないが、人間が生きていく上でいちばん大切な栄養素だ。人間の体自体がほとんどタンパク質でできているのだから、当然といえば当然である。それがさほど苦労なく手に入れることができる広島県人が、さまざまな分野で強い生命力を発揮し続けているのは、むしろ当然のことだろう。

 それにつけても「CARP=鯉」とはよくぞ名づけたものである。滝を登って龍になるという強烈なガッツの象徴であると同時に、鯉は魚でもある。

 昔から広島カープを応援している筋金入りのファンも、ファン歴のまだ短い新参者も、鯉に代表される水産物のお世話になっているのだから、広島の人たちと付き合うには、他県民も水産物でがっちり栄養を確保しておく必要がある。そうでないと、そのパワー、勢いにたちまち飲み込まれてしまうからだ。

 そんな広島の数ある水産物の中でも、「名産」という言葉にふさわしいのは、やはりカキである。身が肉厚でプリプリした食感と濃厚な甘みが特徴という広島のカキは、「県の魚」にもなっているほどだから、人々とのつながりは長く、また深い。カキを魚というくくりで扱っていいのかという疑問もあるが、まあ、海に()んでいるのは間違いないのでOKとしよう。

 それはともかく、広島県の養殖カキの生産量は全国1位で、2017年の全国の総生産量(17万3900トン)のうち10万3454トン、つまり57・8%を占めている。2位の宮城県の4倍以上である。

 出荷は毎年10月〜翌年5月までだが、旬は12月から年明けの1、2月にかけて。この時期はカキの体内に、おいしさの源でもあるグリコーゲンが大量に蓄えられているので、生で食するなら、広島産のレモンをかけるだけでOKだという。

 広島のカキがおいしいと言われるのは、次のような理由がある。

 第一に、多くの川が中国山地から流れ込む広島湾は水がきれいで、島や岬に囲まれているため、カキのエサとなるプランクトンが豊富。また、年間の水温変化もカキの成長リズムに合致している。

 二つ目は、室町時代から続く養殖技術・ブランドを守るため、厳しい出荷基準をクリアしたカキだけが流通している。

 そして三つ目は、「海のミルク」とも呼ばれるほど、タンパク質、カルシウム・リン・ナトリウムなどのミネラル類、さらにビタミン類など栄養素が豊富に含まれていること。

 最近注目されているのは、カキに多く含まれる亜鉛である。亜鉛は、不足すると子どもの場合、成長障害や鉄欠乏性貧血を招くし、大人は

 皮膚炎・脱毛症・味覚障害・インポテンツなどを発症する。子どもや女性には欠かせない栄養分と言っていい。

 食べ方は生がベストだというが、ほかにも網焼き、土手鍋、オイル漬け、炊き込みご飯、てんぷら、バター炒め、フライ、竜田揚げなどなどさまざまなバリエーションがある。

 網焼きは殻つきのカキを火であぶるだけのシンプルな食べ方。うまみが凝縮され、濃厚な甘みを堪能できる。磯の香りが口の中でふわっと広がり、ふくよかできめのこまかい広島の日本酒との相性は抜群だとか。ついでながら、カキに含まれているタウリンは肝機能をアップさせ、二日酔いも防いでくれるという。

 土手鍋は、鍋の内側に味噌を塗りつけ、生カキと野菜を一緒に煮るもの。広島で生まれた冬の郷土料理で、土手のようになった味噌を崩しながら、好みの味に加減しながら食べる。


岩中祥史(いわなか よしふみ)
 1950年11月26日生まれ。愛知県立明和高校から東京大学文学部に進み、卒業後は出版社に勤務。1984年より出版プロデユーサーとして活動するとともに執筆活動も。地域の風土と人々の気質との関係をテーマに、『名古屋学』『博多学』『札幌学』『鹿児島学』『新 不思議の国の信州人』『新 出身県でわかる人の性格』『名古屋の品格』『城下町の人間学』など著書多数。2011年の上梓した『広島学』はご当地広島の人たちをも驚かせる内容で、ベストセラーになった。


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