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2019/3/14

世間に出回るうわさ・デマに注意 

怪文書をひもとく 信頼性に欠け発行者不明

 読者の皆さんは怪文書を見たことがあるだろうか。信頼性に欠け発行者が不明な状態で、世間に出回る匿名の文書を指す。怪文書にはどのような特徴があり、どのような人が出すのか。そして、どう広まっていくのか。心理的メカニズムを、社会心理学の研究者に話を聞きながらまとめた。(日川剛伸)

 記者という仕事柄、多くの怪文書を目にするが、大半は特定の組織や個人を誹謗中傷したり、一方的な主張を述べたりする内容だ。出所(誰が書いたのか)分からないようパソコンで書かれる文書がほとんどだが、新聞や雑誌を切り貼りした文書を見るときもある。

書き手の心理は…

 では、どのようなタイプの人が書き手になるのか。広島国際大の西村太志准教授は、「一概に性格の問題では語れない」と前置きした上で、「怪文書を書くことを攻撃行動の一つとして考えると、怒りっぽいなど攻撃的な特徴を持っている人に、ある要素が重なったときに生じやすい可能性がある」と指摘。ある要素とは、「扇動因の存在」と「自己制御資源の乏しさ」の二つを指し、西村さんの研究グループが発表した攻撃行動についての研究で示されている。

 つまり、相手から挑発されたり、自分にとって不利益となるような状況を相手が作っているとみなしたりした場合(扇動因の存在)で、そのことを受け止める心の余裕がない場合(自己制御資源の乏しさ)に、攻撃的な人は怪文書のような攻撃行動を取る、という。

なぜ広まるの?

 怪文書は、「絶対真実」でもなければ、「絶対うそ」と確定する材料が乏しいのが特徴だ。さらに、多くは攻撃相手(団体)と近しい関係者でしか知りえないようなリアリティーが感じられる内容が盛り込まれている。つまり、本当かもしれないし、うそかもしれない。モヤモヤ感が残るのが怪文書だ。

 西村さんによれば、怪文書が広まるかどうかをうわさの伝達と同じメカニズムと考えるならば、怪文書が広まるかは「問題の重要性」と「状況の曖昧さ」の積に比例するという。

 1947年にオルポートとポストマンという心理学者が提示した公式に基づくもので、人間は曖昧な状況を嫌う傾向があり、書かれている内容の信頼性を確かめようと、周囲に確認する。そして、《自分が住んでいる〇市のお偉いさんが汚職をしているようだ》というように、内容が身近で、かつ重要であればあるほど、「怪文書は加速度的に広まる」というわけだ。

 さらに、広まるときには、もともとの情報がそのまま広まるわけではない。西村さんによれば、「口コミや会話で内容が広まるときは、書かれていた内容が短くなって、強いインパクトのある言葉だけが残っていく傾向がある」という。例えば、《あの議員は1000万円の資産を活用し事業をしているらしいが、手広くしているから不正をしているかもしれない》という文は、《あの議員は1000万円の不正をした》という当初の内容とは異なるものに変容することもある。

 出所がはっきりしない匿名の文書は信用しないこと。当たり前のことだが、怪文書に触れたときの対処法だ。興味深く読んだとしても、「書かれている内容の真偽を正しく読み解く力を持つように」と西村さんは訴える。怪文書はしょせん怪文書なのだから。

弁護士法人あすか 大橋弁護士に聞く

 怪文書によって誹謗中傷などの被害を受けたときには、刑事・民事事件の両方で法的措置が検討できる。

 弁護士法人あすかの大橋真人弁護士の話によると、怪文書の内容や出回った枚数などによって、刑事事件の場合は名誉棄損罪や恐喝罪、脅迫罪などの罪に問え、民事事件の場合は、損害賠償請求額を算定する判断材料になる、という。刑事事件の場合は警察署に被害届を、民事事件の場合は弁護士に相談することが第一歩だ。

 ただ、法的措置を取るには、訴える相手(団体)が確定していることが条件。インターネット上の書き込み被害は、プロバイダーで発信元が確定されるケースが多いが、「怪文書は相手を特定しにくいのが実情」と大橋弁護士。このため、自力で証拠となるような資料を集めておくことも大事、という。

 大橋弁護士は「被害を受けたら一人で悩んだり、放っておいたりしないで専門家に相談するように」と話している。


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