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2019/2/21

ジイジ・バアバ、パパ・ママへ贈る

心のめばえ アヤと過ごすジイジの日記 <28>

著者/牟田 泰三
挿絵/橋本 礼子

5歳2カ月 お絵かき

 幼児のお絵かきは0歳頃から始まっている。この時期のお絵かきは絵を描いているというより色を塗りたくっているだけで、意図的な造形ではない。

 2歳から3歳頃になると、だんだん輪郭を描くようになり、人や動物の姿が現れてくるようになる。「これジイジだよ」とか「バアバだよ」とか言っているが、全く似ても似つかないもので、それでも、ジイジとバアバは「上手に描けたね」などとお世辞を言っている。

 線描で動物や景色などを、たどたどしいながらも描くようになると急速な進歩が始まり、5歳頃には絵に物語性が出始める。

 アヤがバアバの絵を描いていると言う。見ると、なるほど、それらしき人物の絵だ。

ジイジ「バアバは何してるの」
アヤ 「バアバがね、お外を歩いてたら雲が出てきて、雨が降り出したんだよ」
なるほど、雲が描かれていて、そこから雨が降っている。
ジイジ「それは困ったね。濡れないかな」
アヤ 「大丈夫だよ。傘を持っているから」
確かに、バアバの頭の上に傘が描き加えられた。
ジイジ「どうして傘は上を向いていないの。バアバが濡れそうだよ」
アヤ 「急にね、風が吹いてきたの」
そうなのか、傘は風であおられているようだ。
ジイジ「雨も風もひどくなってきたんだね」
アヤ 「うん、水たまりも出来てきたんだよ」
うーむ地面に小さな水たまりが描かれている。


アヤが描いた絵

 一つだけ、どうも気になるところがある。バアバの絵におへそが描かれていることだ。
ジイジ「どうしてバアバにおへそを描いたの」
アヤ 「だって、おへそを描いておかないと人間だって分からないでしょ。他の動物にはおへそはないんだよ」
ジイジ「確かにカエルにはおへそがないけどね」(注人間以外にも哺乳動物にはおへそがある。しかし、毛があるので見えにくい)

 こうして、言葉ではなくて、絵を通してコミュニケーションを取るというのは、人類が古代に文字を発明したときと同じではないだろうか。

 エジプトでも中国でも、言葉が原始的な文字で表されるようになったときは絵文字(象形文字)だった。この象形文字がだんだん簡素化されて、表音文字へと変貌していき、遂にはアルファベットになる。ヨーロッパ系の文字は皆この経緯をたどっているようだ。

 中国の文字はかたくなに象形文字を原理としてきたので、ヨーロッパ系の文字と根本的に違っていて、アルファベットがない。日本は古来中国の影響下にあったせいで、文字は漢字を使ってきた。ところが、日本語はもともと漢字の原理と違って、どうもアルファベット的だったようである。実際「イロハニホヘト・・・」はある種のアルファベットである。そこで、漢字をもとにして「ひらがな」とか「カタカナ」をつくりだし、五十音図「あいうえお・・・」が完成した。驚くべき器用さである。

 こうしてとても便利な日本語の文字が出来上がった。先人に感謝するほかない。日本語は、表音文字としてのアルファベットの便利さと、表意文字としての漢字の便利さの両方を巧みに組み合わせて出来上がっていて、簡潔に且つ分かりやすく状況を表現できる。素晴らしい文字体系だと思う。


プロフィル むた・たいぞう

 1937年、福岡県生まれ。九州大学理学部卒業、東京大学大学院物理学専攻修了、理学博士。京都大学助手・助教授、広島大学教授・学長、福山大学学長などを歴任。主な著書に「語り継ぎたい湯川秀樹のことば」(丸善出版)、「電磁力学」(岩波書店)、「量子力学」(裳華房)などがある。東広島市在住。

連載中の「心のめばえ」シリーズは、牟田のホームページでも読むことができます。https://home.hiroshima-u.ac.jp/mutata/


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