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2018/10/11

ジイジ・バアバ、パパ・ママへ贈る

心のめばえ アヤと過ごすジイジの日記 <11>

著者/牟田 泰三
挿絵/橋本 礼子

3歳8カ月 淋しいね

 アヤがママに連れられて米子の親戚の家にお泊まりに行くことになった。
「アヤがいないとさびしいな。」
と言ったら黙って聞いている。ジイジの言葉の意味は分かってないのかな。

 アヤは近くの公園にある滑り台が大好きで、よく滑りに行く。この滑り台はジャングルジムの一部になっていて、他にも雲梯(ぶら下がって前進する遊具)やネット渡り(網の上を渡る遊具)などもついている。ネット渡りも、三ヶ月ぐらい前までは、ジイジかバアバが横で手助けしてやらなければ渡ることができなかったけれど、いまは自分一人でちゃんと渡りきることができる。

 先日公園に行ったら、アヤがこの網の上を渡り始めた。それを下で見ていたら、
「ジイジも一緒に渡って。」
と言う。
「アヤはもう自分で渡れるようになったんだから、ジイジがいなくても大丈夫でしょ。」 と言うと、
「駄目、淋しいんだから。」
こんな場面で『淋しい』という言葉を使うのには一瞬虚を突かれた気がしたけど、『淋しい』の意味を正しく理解して、この言葉を的確に使っているのには驚いた。

 幼児が言葉を覚え、理解し、活用する、そのスピードには驚くことが多い。こうして、一所懸命人間社会に順応していこうとしているのだろうか。

3歳9カ月 幼稚園

 アヤはこの4月から西条幼稚園に行くようになった。年少部のうさぎ組だ。

 これまでは、主として家族の中で自由気ままに育ってきたのが、月曜日から金曜日まで、毎朝、汽車ぽっぽの形をした送り迎えのバスに乗って幼稚園に行く。園児達、特に年少組の幼児達は、まだ家庭生活から抜けきれていなくて、わがまま一杯だから、とても団体行動どころではない。

 幼稚園ではとてもいい保育システムが組まれていて、この幼児達をうまく導いていただいている。先生方の大変なご苦労には脱帽である。こうして、アヤも集団生活を学んでいくのだなと思う。

 でも、ジイジとしては、なぜか淋しい気もする。幼稚園で受ける教育のおかげで人間社会の一員としての正しい第一歩が踏み出せるのであるが、その一方では、家庭内で自由奔放に振る舞って独創的な考えでジイジを驚かせていたアヤがだんだんと影を潜めて、標準的な人間に近付いていくのが、どこか淋しいのである。

 これはきっとジイジのわがままなのだろう。

ジイジの気付き 外の世界とのつながりが心の成長を加速させる。


プロフィル むた・たいぞう

 1937年、福岡県生まれ。九州大学理学部卒業、東京大学大学院物理学専攻修了、理学博士。京都大学助手・助教授、広島大学教授・学長、福山大学学長などを歴任。主な著書に「語り継ぎたい湯川秀樹のことば」(丸善出版)、「電磁力学」(岩波書店)、「量子力学」(裳華房)などがある。東広島市在住。

連載中の「心のめばえ」シリーズは、牟田のホームページでも読むことができます。https://home.hiroshima-u.ac.jp/mutata/


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